長次郎谷ふたたび。今回は熊の岩泊、劔岳まで 7月下旬 

2017年10月13日

長次郎谷から、熊の岩泊、長次郎のコル、北方稜線を劔岳まで。

コースの概要

 

コースは室堂から雷鳥坂を詰め、劔御前小屋、剣沢雪渓を1.5キロ(標高差500m)下り、長次郎谷を1.3キロ(標高差700m)登って熊の岩でツェルト泊。次の日に距離500mの長次郎上部を、標高差300m登り長次郎のコル。さらに北方稜線を200mほど登り劔岳山頂。一般道とされる「別山尾根」をおなじみのカニの横ばいなどを経て、クロユリのコルから劔御前小屋、雷鳥坂、室堂。

 

たぶん、自身が単独で行けるギリギリの場所でした。かなり衰えた体力、頼りない経験、あとわずかな勇気を、みーんな絞ってきました。運も要りました。使い切りました。ほんとにカスカスになりました。それでもそれでも、魅力しかないコースでした。難易度はそれなりに高いですが、晴れていたらまあ大丈夫です。ガスに巻かれ迷ったらたら高確率で怖い目に遭います。自己責任でよろしく。

次回(あるのか?)のために持ち物リスト

 

ザック60ℓ、ザックカバー、ストック、ツェルト、シュラフ、軽量のブルーシート2×2m、銀マット(2分してザック内に)、アイゼン12本爪、ピッケル、ツェルト用のピグを細引きで締め上げたもの(想像していたとおり最後の雪壁で助かった!)、いつもの工事用ヘルメット。雨具一式、ヘッドランプと予備電池、ポケットコンロ、燃料、ライター、カップ、カッターナイフ、細引き、サングラス、痛み止め、地図、方位磁石、充電池、充電コード、靴下の替え、登山計画書、健康保険、免許書、現金少々、ダウンジャケット、タオル、日焼け止め。食事3食半。行動食、非常食、クレバス落下時に知らせるホイッスル(使わなくてよかった)、水分(5kg うち2kgは室堂で美味しい湧き水調達)。計ってないけど14kg以内。

 

さて貸し切りの長次郎谷

 

ここはよく知る山域なのに、いつもいつもそのスケールには圧倒されます。劔沢をだだだと下り、平蔵谷出合を過ぎて、やや狭まった長次郎出会。ここから、広いところで幅400mはある雪渓が、高低差1000m、距離2500mにわたってコル直下まで続きます。左岸に八ツ峰の岩峰、右岸に源次郎尾根が迫り、そこは雪と岩と青空しかない空間です。

 

ほんとうに人間は小さいということを体感できます。歩いても歩いても熊の岩が近づいてこない、いわゆる熊の岩マジックも経験できます。途中一組すれ違ったものの、あとは貸し切り。急斜面のため、熊の岩ではじめて腰を下ろせました。午後4時。ここまで勾配がきつく、座れる場所はないんです。

 

テン場にひとりきりツェルトを張り、黄金の夕焼けに染まる後立山連峰に見惚れ、そのあと満点の星に降られながら眠ることができました。数キロのあいだに人影は皆無。岩と雪と星だけ。星の輝きだけで山々のシルエットがくっくりわかり、雪渓まで輝く。そんな星空でした。風か、いや熊か、そういう目覚め方は何回かしたものの、基本熟睡できました。全てが圧倒的に大きく、全てが悲しいくらい静寂でした。

 

さて翌日。雪渓は熊の岩からさらに勾配を増します。落ちはじめたら熊の岩で砕けるかかクレバスに落ちるまで止まらない場所。滑落を止める自信だけはあっても、長時間ずっと緊張を強いられます。振り返ったら怖すぎる、高度感がありすぎの斜面。写真もなかなか撮れないところです。

 

詰めた上部でもしも雪渓が切れていた場合、またこの勾配を下ることになるのかと思うと、ぞっとします。またそこは、ほんとによく切れている場所なんです。もう博打のようなものです。そして結果。切れたクレバスに絶望しつつ念のため右端を覗きにいったところ、クレバスの崩壊あり。その崩壊を利用してなんとかクレバス内部に降り立つことができました。

 

あとは雪壁を雪渓上段へ登るだけ。助かった。世の中のあらゆる神様に感謝した瞬間でした。右手でピッケルを振り、左手で、ピグで作った自作の爪を食い込ませ、アイゼンの前爪を蹴り込んでひと頑張り。登りきったところに雷鳥がお出迎え。あんたらは偉いよ、こんなところで生きてるって!

 

あとは悲しくなるような帰路。こんな馬鹿重い荷物を持った登山者は皆無です。この重量で連続鎖場はなかなかアカン感じです。しかし雪渓の下りは去年で懲りてるので踏み出せず‥‥。結局、こんなん長次郎谷のほうが安全やん、というくらい危険な別山尾根をなんとか下り、きっつい劔御前の乗越を泣きながら越えてきました。

必要なスキル・訓練 ベストシーズンは

 

高い山が近くにない人は、花粉マスクして(低酸素で)登る訓練がいいかも知れません。高山の急斜面は、馴れないとほんとに苦しいです。また雪渓に馴れていない人は、傾斜が緩いうちにぜひ滑落停止訓練を。基本は着地と同時に、滑り出す前にピックを刺すだけです。夏山の雪は、簡単に刺さります。

 

雪が残り、かつ雪渓上部が切れていない、またアイスバーンになっていない。そのような時期は、7月中旬。梅雨の合間のワンポイントがベストです。

アドバイス

 

劔沢で宿泊すると次の日の行程がややきついです。体力不足を感じる人は室堂から熊の岩までを1日目にやっつけると翌日が楽です。まあ、体力不足の人が入ってはいけないコースだといえばそれまでですが。